近年、競争が激しいビジネス環境で生き残るために、システム開発による業務効率化やコスト削減は必須となっています。
しかし「何から始めればいいか分からない」「専門的すぎて導入のハードルが高い」と感じる経営層や業務担当者も少なくありません。
本記事では、システム開発がそもそも何なのかという基本的なところから、工程・進め方・必要なポイント・注意点まで、専門用語をできる限り避けて解説しています。
さらに導入費用の考え方や投資対効果(ROI)まで踏まえながら、読者の方が具体的に行動しやすい方法をご紹介します。
正しいプロセスと体制づくりがあれば、多くのリスクを回避しながらシステム導入のメリットを最大化できます。
今回ご紹介する内容は、一例です。開発の背景や開発を担当する企業によっても異なる場合がありますので、システム開発に必要な要素はどんなものがあるのか?という観点からご覧いただければと思います。
ぜひ最後までご覧いただき、自社の状況に合ったシステム開発を検討してみてください。
システム開発とは何か?
システム開発とは、企業や組織が抱えている問題や要望を、情報技術の力で解決・改善する仕組みづくりです。
現場の人手不足や作業ミス、コミュニケーションロスなどをITで解消し、ビジネス全体の効率と品質を高めるのが目的です。

システム開発の工程
システム開発では、要件定義から運用保守までが基本の流れが一般的です。
場合によっては、開発とデザインを並行しておこうなうようなシーンも出てきますので、必ずこの順序になるというわけではありません。
各段階ごとに適切な計画と検証を行うことで、完成度が高いシステムが生まれます。

01 要件定義
最初に、経営層や業務担当者が必要とする機能やゴールを整理します。 この段階で「現場が抱える具体的な課題」や「理想とする業務の状態」を洗い出します。 もしここが曖昧だと、完成したシステムが期待ハズレになるリスクが高まります。
要件定義を如何に解像度高く行うことができるかによって、後続の工程が効率的に精度高くできるか左右され、システム開発の成否にも影響していきます。
要件定義について詳しくご紹介しています。

02 基本設計
要件定義で固まった内容をもとに、システムの大まかな構造や使う技術を決めます。 「どのような仕組みで動かすのか」「他のシステムと連携するか」などを検討し、実現可能性を確認します。
03 詳細設計
基本設計をさらに詳しく掘り下げ、データの持ち方や画面の流れを決めます。 例えば「入力フォームをいくつ設けるか」「ボタンを押すとどのように画面が変わるか」など、操作や動作を具体的に設計します。
04 開発(実装)
設計で決めた内容を実際のプログラムとして作り上げます。 アジャイル開発の場合は、短い期間で小さな機能を完成させてテストし、改善を続けるサイクルを回す方法が一般的です。
05 テスト
作成したプログラムが正しく動くかを検証します。 「単体テスト」で個別機能を確認し、「統合テスト」で組み合わせた動作を確認し、「総合テスト」でシステム全体としての仕上がりを確認します。
06 デザイン
ユーザーが見て触れる部分の見た目や使い勝手を決める工程です。 直感的に使える画面デザインは、現場の負担を減らし、導入後のスムーズな定着を後押しします。
07 公開
01〜06までの工程が完了した時点で本番環境に移行し、システムを公開します。 公開時には利用マニュアルや問い合わせ窓口を整えておくと安心です。
08 運用・保守
公開後も定期的なメンテナンスやアップデートが必要です。 利用者の声を集めて改善を施し続けることで、長く活用できるシステムになります。
私が実際に5年間にわたり参画したプロジェクトの流れについてご紹介しています。

システム開発の進め方①【開発手法】
システム開発の進め方は、開発手法の選択とプロジェクトの管理方法が大きく関係します。 組織に合った手法を選び、進捗管理とコミュニケーションを徹底することが成功に直結します。以下に、代表的な開発手法を紹介します。
開発手法
ウォーターフォール型
ウォーターフォール型は、要件定義 → 設計 → 実装 → テスト → 運用・保守といった工程を、一方向に段階的に進める開発手法です。
各工程が完了してから次の工程に進むため、途中での大きな変更が難しい反面、計画に沿って進めやすく、管理がしやすい特徴があります。

メリット
- 工程やスケジュールが明確で、全体を把握しやすい
- 仕様変更が少ない場合、計画通りに進みやすい
- 大規模案件や要件が固まっているプロジェクトに向いている
デメリット
- 後戻りが困難で、不測の事態に対応しにくい
- 開発途中で仕様変更が出ると、大幅な修正コストがかかる
- 完成品が公開されるまで、実際に動作する様子を確認しづらい
アジャイル型
アジャイル型は、短い開発サイクルを繰り返しながら、小さな単位で開発とテスト、改善を行う手法です。
顧客やユーザーからのフィードバックを早い段階で得られ、要件が変化しやすいプロジェクトや小~中規模案件に適しています。

メリット
- 変更や新しい要望に柔軟に対応できる
- 定期的なリリースと評価を繰り返し、品質を高めやすい
- 顧客やチームメンバーが頻繁に進捗・課題を共有するため、コミュニケーションが自然と密になり、認識齟齬が減る
デメリット
- スコープ(範囲)の管理が難しく、計画が流動的になりやすい
- 全体像を最初に固定できないため、大規模システムでは管理が複雑になる場合がある
- チームの連携とコミュニケーションが欠かせないため、十分なリソースが必要
システム開発の進め方②【プロジェクトマネジメント】
誰がマネジメントするのか?
一般的に「プロジェクトマネージャー(PM)」が、システム開発プロジェクト全体の進行を管理します。
社内プロジェクトの場合は、システム部門やIT担当部署から選任されることが多く、外部委託(ベンダー)主導の場合は、ベンダー側のPMが責任者となるケースもあります。大規模案件では、顧客(発注側)PMとベンダーPMの2名体制で連携することもあります。
何を、どのように管理するのか
プロジェクトマネージャーは、以下の要素を総合的に管理・調整します。

01 スコープ(範囲)管理
- 要件定義で決まった機能や仕様がどこまで含まれるか明確化
- 追加要望などが出た場合は、予算や納期への影響を検討し、採用の可否を判断
02 スケジュール管理
- 全体の作業工程(要件定義、設計、開発、テストなど)を時系列で把握
- 遅延が生じたら原因を特定し、リカバリ策を実施
- 定期ミーティングや進捗報告を通じてチームのタスク状況を可視化
03 コスト管理
- 初期予算(人件費や開発費、外注費など)を把握
- 追加工数や機能拡張による費用超過のリスクを常にチェック
- 経営層や発注元に対し、予算変更が必要な場合は速やかに報告
04 品質管理
- テスト計画やコードレビュー体制を整備し、不具合を早期に発見
- ユーザー(業務部署)による受入テストで使用感や操作性を確認
- リリース前後で改善点があれば優先度を検討し、対応可否を判断
05 リスク管理
- スケジュール遅延、要件変更、技術的障害、人員不足など潜在リスクを洗い出す
- 発生したリスクに対する迅速な対策・判断
- ステークホルダー間の摩擦やコミュニケーション不足への対応
06 コミュニケーション管理
- チーム内および社内外ステークホルダーへの情報共有、意思決定のファシリテート
- ミーティングや報告書、チャットツールなど複数手段で進捗・課題を共有
- 経営層には進捗と同時にビジネス上のメリット(ROIなど)を報告
プロジェクトに参加する主なステークホルダーと管理の視点
システム開発プロジェクトには、社内外を問わず複数のステークホルダーが関与します。
それぞれが注意すべきポイントは以下の通りです。
システム部署(社内IT担当)
- 業務視点を踏まえた設計
単に技術的な最適解だけでなく、実際の運用フローとの整合性を考慮 - 既存システムとの連携
新規開発と既存システムの相互接続部分で不具合が起きないよう整合性を確認 - 継続的な保守運用を見据えた判断
将来的なアップデートや拡張性も視野に入れた技術選定が重要
業務部署(現場ユーザー)
- 要件定義への具体的な協力
現場の問題点や手戻りを防ぐために、できるだけ具体的に業務フローを伝える - テスト、フィードバックへの積極参加
システムの利用者として、機能や操作性の評価をこまめに行う - 運用体制への理解と周知
導入後の問い合わせ窓口や操作マニュアルの作成・活用に協力
経営層(上層部)
- 投資対効果のモニタリング
システム導入によるコスト削減や売上向上を定量的に把握 - 優先度の明確化と判断
開発中に追加要望や変更が発生した場合、どこまで予算を割くか経営判断を下す - 社内意識の統一、方針の周知
システム導入のメリットを社内に説得力をもって共有し、円滑な導入に尽力
システムベンダー(外部開発会社)
- 契約スコープとスケジュールの厳守
契約で定めた範囲外の要件が出た際の対応ルールを明文化 - 品質と納期の両立
リソース管理を徹底し、不具合や遅延を最小限に抑える - 進捗状況の適切な報告
不具合やトラブルが予想される段階で早めに発注者へ連絡を行い、事前に対応策を検討
その他の関係者(例:セキュリティ専門家、法務担当など)
- 必要に応じて契約書の見直しや社内規定の更新をサポート
- 専門領域の視点からリスクを指摘
- 情報漏洩リスク、ライセンスやコンプライアンス問題など、それらがプロジェクト全体に与えるインパクトを確認
システム開発に必要なもの
システム開発を円滑に進めるうえで、以下の要素が欠かせません。
「技術」「人材」「コミュニケーション」の3つがうまくかみ合うことで、高品質かつ使いやすいシステムを作り上げられます。
適切な技術基盤
・使うプログラミング言語や開発ツールを選ぶ
・クラウドか社内サーバーか(オンプレミス)を検討する
・セキュリティ対策とデータのバックアップ体制を整える
開発チームとサポートメンバー
・プロジェクトマネージャーや開発者(エンジニア)、デザイン担当者
・業務の専門知識を持つ担当者(業務部門のキーマン)
・外部ベンダーやITコンサルタントを巻き込む場合もある
コミュニケーションと情報共有
・定例会議やチャットツールなどで進捗や課題を共有
・ドキュメントや仕様書の更新履歴をわかりやすく管理
・経営層にも定期レポートを行い、意思決定をスムーズにする
技術・人材・コミュニケーションの3つが連携していると、開発中のトラブルを最小限に抑えられます。最新の技術を理解し扱える人材が揃っていることで、「想定外の技術的課題」が早期に検知されやすくなります。
さらに、チーム内外でこまめに情報を共有し合う(コミュニケーションが活発)ことで、「小さな問題や要望の変化」も早い段階で対処できるため、大きな手戻りや深刻な納期遅延を防げます。
システム開発で注意すべき点
システム開発において、要件のズレとリスク管理が最大の課題です。想定外の出来事や要望の変更が頻繁に起こります。 計画段階からリスクを把握し、定期的に要件を見直す仕組みを作っておくことで、大きな混乱を防ぎます。

要件の変更リスク
- 開発中に業務ルールが変わるなどで仕様変更が発生
- ステークホルダーの意見のすり合わせが不十分な場合
- 定期的な要件レビュー会議で早めに問題点を共有
品質管理とテスト
- テストを省略すると、リリース後に重大バグや不具合が発覚
- ユーザー目線のテストケースを十分に用意する
- 検証環境を整え、操作ミスや負荷にも配慮
セキュリティ対策
- 外部からの不正アクセスやデータ流出のリスク
- 定期的な脆弱性診断やソフトウェア更新が必須
- 重要情報を扱う場合は厳重な権限設定と監視体制を導入
コストオーバー
- 仕様が増えていくと想定より予算が膨らむ
- 開発の初期段階で予算枠と追加要望の優先度を明確化
- 導入で得られる効果(例えば残業削減やミス低減)を定量化し、投資対効果を確認して経営判断を行う
費用対効果の考え方
多くの経営層は「システム導入にどれだけ費用がかかり、いつ回収できるか」を重要視します。 ここでは、投資対効果(ROI)と総所有コスト(TCO)という考え方を簡単に解説します。
投資対効果(ROI)
ROI(Return on Investment)は、かけた費用に対してどれだけ利益や効果が得られたかを示す指標のことです。
システム開発では、導入コストと売上増・運用コスト削減などの効果を定量的に比較し、いつ投資を回収できるかを明確にすることが重要です。
ROI(投資利益率)を数値化する際は「(利益 ÷ 投資額)×100%」の計算式で算出し、開発の途中段階から定期的に予想値と実際の効果を照合します。
そうすることで、期待値との差分を把握でき、必要に応じて予算配分や機能範囲を見直すなど、効果的な管理・意思決定が可能になります。
総所有コスト(TCO)
TCO(Total Cost of Ownership)とは、システム導入後の運用や保守、アップデートにかかる費用など、初期費用以外も含めた「トータルのコスト」のことです。
具体的には、サーバーの維持費やライセンス料、サポート契約などを合計し、システムの寿命や拡張を考慮しながら長期的に管理します。
TCOを算出する際は「初期導入費用+ランニングコスト」の合計を年単位や月単位で見比べ、実際の支出が想定と合っているかチェックすることが大切です。
まとめ【正しいプロセスと体制づくりがシステム開発成功の鍵】
システム開発は要件定義から運用保守まで、綿密なプロセスが必須です。不十分な計画や人材不足、リスク管理の甘さが失敗の原因になります。アジャイル開発やウォーターフォール開発など、組織に合った手法を選ぶと成功率が高まります。最終的には、正しいプロセスと体制があれば、コストや時間を最適化できます。
以上のように、システム開発は「何を解決したいか」によって形が変わりますが、正しいステップを踏めばリスクをコントロールしながら着実に成果を得られます。
この機会に、自社の課題や要件に合わせたシステム開発を検討し、ビジネス競争力をさらに高めてください。
システム開発には明確な目標設定と最適な開発手法の選択が不可欠です。
要件定義やリスク管理を疎かにすると、時間やコスト、品質で大きな損失を被る可能性があります。
正しい準備とプロセスを踏めば、より高品質なシステムを効率的に構築できます。この知識を活かし、自社の業務課題を解決する参考になりましたら幸いです。