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【実例】データガバナンスの整備で、整理で終わらないマスタデータ管理(MDM)とデータ活用

DX推進やシステム刷新プロジェクトでは、多くの担当者が「データを正確に管理できれば十分」と考えがちです。
しかし現場では、本来の意味合いやあるべき形式とは異なるデータが頻出し、データ活用の妨げになるケースが後を絶ちません。
ガバナンスの効いていないデータ管理は、部門間の意識調整や責任所在の不透明さが増し、改革スピードが落ちるリスクも生じます。

約800店舗を運営する企業のシステム刷新プロジェクトに5年間業務部署メンバーとして参加した経験からも、単なるデータ管理だけでは情報の食い違いや責任の所在を解消できないと痛感しました。
そこで必要なのが“データガバナンス”です。

この記事では、データマネジメントとの違いからガバナンス導入の効果までを明らかにし、将来的なデータ活用を成功へ導く具体策を解説します。
この記事を読むことで、業務効率の向上やコンプライアンス強化といった具体的メリットを得られます。

最後までご覧いただき、プロジェクト全体を円滑に進めるためのデータガバナンス導入・運用に踏み出すきっかけにしてください。

目次

ガバナンスが効いていない現状

本記事では、データガバナンスについて紹介していきますが、先に実経験としてデータガバナンスが効いてない環境下においてどのような状態となるのかをご説明します。

私の所属する企業では、マスタ構造の再構築を行い、新たなマスタ管理システムが作られましたが、ガバナンスを効かせるための体制や部署の設置というものは行われませんでした。

マスタ整備の中で作成した「定義づけ」「マスタ関連図」の内容は正しく運用されていない状況にあり、定義から外れた情報や意味合いの異なる情報の登録が横行しています。
結果として、以前から行われていた精度の低いマスタの洗い出しや修正作業というものは一向に減っていませんし、恐らく見つけられていない不備も多数あると思われます。

理由は、簡単です。
プロジェクトに参加したメンバー以外の従業員からしてみれば、ただシステムが新しくなって項目の名前が少し変わった程度にか捉えることしかできないためです。
つまり、プロジェクトで取り組まれた内容が全社的に共有をされていないことが大きな要因です。

プロジェクトに参加したメンバーが、マスタ管理業務以外もある中で、周囲の人たちに定義やルールを説明しながら、ましてや他部署に対して強制力を効かせ、マスタの高い精度を維持していくのは非常に難易度が高いことです。

もし、まだデータガバナンスの検討が進められていない状況であればこの記事でデータガバナンスの重要性を知り、長時間かけて作った定義やルールで正しく運用をして、長く有効活用できる体制の構築の参考になれば幸いです。

データマネジメントとデータガバナンスの違い

データマネジメントは「収集・保管・更新・破棄」などデータのライフサイクルを管理する仕組みです。
データガバナンスは、その管理を円滑に進めるための方針やルール、権限分配、責任者の指定を包括する枠組みです。

データマネジメントは組織が保有するデータを、一貫して整合性と正確性を保ちながら活用可能な状態へ維持することが主なミッションです。
具体的には以下のような作業が含まれます。

  • データをどのシステムやDB(データベース)に保管し、どのタイミングで更新するか決める
  • 不要データの廃棄ルールやバックアップの仕組みを設計する
  • データ構造を標準化して、レポート出力や分析が容易な形に整える

一方、データガバナンスはデータマネジメント全体を監督し、運用に関する意思決定や統制を取るための仕組みです。
具体的には以下の要素を定義します。

  • 誰がデータを所有し、誰が更新権限を持つのか
  • データ品質に関する基準をどのように設定し、評価するのか
  • ルール違反やエラーが発生した場合に、どのような手順で修正・監査を行うか

「データマネジメントが土台」となり、「データガバナンスがその土台を管理・統制するルールセット」として機能することが理想です。

「データマネジメント」はデータの収集や更新などの実務面を、「データガバナンス」は責任分担やルール設定を担います。
これらを区別しないまま進めると、「誰がどの範囲を管理し、どの水準で承認するか」が曖昧になりがちです。
結果として、同じデータでも部署ごとに定義や更新手順が異なり、マスタデータの統合が困難になります。
さらにエラー発生時に対応責任者が不明確となり、問題解決が滞るリスクが高まるのです。

MDM(マスタデータ管理)におけるデータガバナンスの目的

MDM(マスタデータ管理)を円滑に運用するには、データガバナンスを活用してマスタデータの品質を常に高め、運用コストを削減する必要があります。

MDM(マスタデータ管理)は企業にとって重要かつ共通利用されるデータを正確に保管し、全社的なビジネスに活用できる状態を整える仕組みです。データガバナンスを導入すると、以下のメリットが得られます。

  1. データの正確性・一貫性を保つ
    • どのデータが正とされるのかを明確化
    • 更新時の手順や承認フローをマニュアル化
    • 重複データや誤入力を削減し、整合性を維持
  2. データ活用や分析の効率化
    • 部署間で共通のルールがあるため、レポート作成や分析が円滑化
    • 迅速な意思決定を支援し、競合優位性を高める
  3. コンプライアンス・リスク管理
    • 個人情報や機密データの保護ルールが明確化
    • 監査ログやアクセス権限の管理により、リスク最小化
  4. 合意形成と責任所在の明確化
    • 各部門が「どのデータを管理し、どの範囲まで責任を負うか」を文書化
    • 担当不在や意思決定の遅れを防ぎ、プロジェクトの進行速度を高める

データガバナンスはMDMを「ただのデータ管理」から「価値ある情報資産活用」へ昇華させます。
この視点を持つことで、社内の重複作業を減らし、運用コストを下げるだけでなく、ビジネス全体の成長も期待できます。

データガバナンスの主な手法

データガバナンスの実践には、明確な組織体制とルール設定が欠かせません。
以下にある6つのような手法を組み合わせることで、運用面と管理面の両立を図ることが可能となります。

  1. ガバナンス組織の設置
    • データガバナンス委員会や専門部署を立ち上げ、経営層や主要部門のリーダー、データ管理者が参加
    • 全社的なデータ方針や優先度を決定し、リソースを適切に配分
  2. データオーナーとデータステュワードの明確化
    • マスタデータごとに最終責任を負う「データオーナー」を指定
    • 日常的な品質チェックや更新業務を行う「データステュワード」を配置
    • 権限と責任を明文化し、運用を滞りなく実施
  3. データ標準とデータ辞書の整備
    • 項目名や定義、データ型、関連ルールを統一し、全社で共有
    • 部署ごとの表記ゆれや二重管理を防ぐために定期的にメンテナンス
  4. データ品質管理の導入
    • 重要KPI(例:エラー率、データ更新リードタイム)を設定し、定期的にモニタリング
    • エラー発見時の修正フローを定め、誰が修正し、誰が承認するか明確化
  5. ワークフローと承認プロセスの整備
    • データライフサイクル(生成~更新~廃棄)を可視化し、必要な承認ステップを標準化
    • システムでの監査ログを残し、コンプライアンスに対応
  6. 監査とKPIの設定
    • 定期的に第三者的視点で監査を実施し、運用ルールの遵守状況をチェック
    • 問題があれば速やかに是正策を打ち、ガバナンス体制の継続的な向上を図る

これら6つの手法を組み合わせることで、データが増大しても品質と統制を同時に保つ仕組みを構築していきます。
組織全体で共通認識を持ち、責任の所在を明確にしておくことが重要です。

持続可能なデータガバナンス体制

データガバナンスは単なるシステム導入ではなく、経営層のコミットメントや組織横断的な協働体制が不可欠です。
また、教育とPDCAを回し続け、持続的に運用する仕組みを作りましょう。

  1. 経営層のコミットメント
    • 経営陣が「データは戦略資産である」と位置づける
    • リソースや予算、権限付与などをトップダウンで支援し、実行力を高める
  2. ガバナンス推進組織の育成
    • 委員会や専門部署を立ち上げ、各部門のキーパーソンをメンバーとして参加
    • データステュワードやデータオーナーに必要な教育を提供し、運用スキルを磨く
  3. 現場との連携強化
    • 実際の業務フローを理解し、「どのデータがどの場面で必要か」を分析
    • 現場の意見を吸い上げながらルールや手続きを設計し、納得感を醸成
  4. 運用プロセスの具体化
    • 「誰がどのシステムにアクセスし、どの承認を得て更新するか」を明文化
    • ワークフローを可視化・自動化し、現場の負担を減らしながら品質と効率を両立
  5. 教育とトレーニング
    • データガバナンスの意義と運用ルールを研修やマニュアルで周知徹底
    • 新人教育や定期的なリフレッシュ講座を設け、担当者の理解度を継続的に高める
  6. 継続的なPDCA
    • KPIを定期的にチェックし、問題点が見つかればプロセスを即修正
    • 組織や市場の変化に合わせてルールや体制を進化させ、常に最適化を図る

これらの取り組みを社内全体で実行することで、データガバナンスが「特定部署の取り組み」ではなく「全社共通の重要テーマ」に昇華します。
結果として、データをめぐる責任所在が明確になり、プロジェクト推進のスピードアップや品質向上が望めます。


まとめ

データガバナンスを強化することで、マスタデータの品質向上やリスク低減、コンプライアンス強化を実現し、DX推進の基盤を盤石にできます。

ガバナンス体制がない状態でデータを増やし続けると、誤入力や重複が増え、担当者や責任所在が曖昧になる恐れがあります。結果として、意思決定の遅延やプロジェクトの進捗停滞、コンプライアンス違反リスクの増大を招きかねません。一方、ガバナンスを導入すれば、誰がどのデータを管理し、どの基準で運用するかを明確化できます。共通ルールを全社で共有し、監査ログなどを可視化することで、対立や手戻りを防ぎながら円滑な合意形成を図れます。

専門部署やガバナンス委員会を設置し、データオーナーとステュワードを明確化した企業では、重複データが半減し、レポート作成の手戻りも大幅に削減することも可能となります。コンプライアンス違反リスクやクレーム対応も減少し、コストダウンの実現も見込めます。

マスタデータ管理を正しく運用するには、データガバナンスの仕組みと体制構築が不可欠です。全社的に協力体制を築き、ルールを継続的に見直しながら運用することで、データ活用の未来を切り拓くことができます。

まずは現状の運用や責任分担を見直し、データガバナンス委員会やステュワードを配置する準備から始めてください。
具体的な導入ステップやトレーニング方法を知りたい方は、ぜひ〔お問い合わせ〕や〔関連資料のダウンロード〕をご検討ください。
一歩踏み出して、正しいデータガバナンスを確立しましょう。

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